日本酒樽

昨日大阪梅田で行われた「GI日本酒シンポジウム」に行ってきたので、今回はそのレポートになります。

そもそもGIとはなにか

GIはGeographical Indicationという英語の略語であり、日本語では「地理的表示」と言われるものです。

この地理的表示は定められた規定に従って製造されたモノに対して、産地を独占的に名乗ることができる権利が与えられるというものです。

例えば、日本酒というのはこのようなGIに守られた表記なので、海外で生産された「日本酒」は「清酒」と表記しなければなりません。

あるいは、
スパークリングワイン全てをシャンパンというわけではなく、シャンパーニュ地方で特定の条件をクリアして製造されたものだけをシャンパンと呼ぶことができる
という例が有名でしょうか。

これらの表記に関する独占的な権利を保護するのがGIを認証する制度になります。

竹久健/(株)津々浦々の基調講演

竹久さんは日本酒のGI認証の取得推進に携わっていベンチャー企業の社長さんです。以下で、その方の基調講演の内容をまとめています。

SAKETIMESのアンケートで「日本酒業界における平成とは?」という質問があったそうです。
その中で出てきたのは「等級製の廃止」、「獺祭」、「蔵元杜氏」といった単語だったのですが、GIはだれも気に留めなかったそうです。

しかし、その流れもここ半年で少しずつ変わってきているそうです。

例えば、昨年のJSA(日本ソムリエ協会)のSake Diplomaという資格の教本にはGIに関しての記述が1ページほどしかなかったにも拘わらず、3次試験の記述でGIについて問われるといったことがあったそうです。

あるいは、現在もWSETのSAKEという資格の教本でも、もっとGIについて深堀するよう働きかけているそうです。

そういったGIに対する意識の改革が進んでいることは間違いないことだそうです。

しかし、「GIの意義」とはなんなのでしょうか?

GIの意義

GIを考えるにあたって必要な切り口は以下のようなものだそうです。

・地域内の特性ではあるが、地域外にはない特性
・保護されるに値する場所
・製法基準
・官能検査

これらの観点からGIとして保護することによって、ブランド価値や、品質の担保を行っていくというのが大きな意義になります。

そのGIが認証されているのは白山、山形、灘五郷の3か所。

しかし、このGI認証された酒は本当に特定の地域の特性を表しているのでしょうか?

ワインであればテロワールは概念的に言われていることなので、GI認証に違和感がないのですが、米の性質上、「土地」でまとめるには無理があるように思います。

米は本来、移動可能性が高く、保存性にも優れます。
また、1990年には日本酒の専門家が地域特定の性質を官能評価で把握することは難しかったという結果も出たそうです。

なぜそのような違いがあるモノを「土地」の括りでまとめるのでしょうか?


竹久さんは地域の特定が難しいのは3つの蔵元のスタンスによるものだとしています。

1. 地域のお酒を造りたい
2. 自分たちの造りたい酒
3. 全国区で売れる酒

この3つのスタンスの酒造りが同地域に混同するために、地域の特色というのが味という側面だけでは判別がつかないのだと言います。

この中では特に1の方向性を持った酒、酒蔵がGI認証を取るのに適しているのですが、2や3の方向性でも十分にGI認証を取得するメリットはあります。

GIのメリット

GIにはもちろんメリットとデメリットが混在しています。

メリットとしては、
・国際的に認知された保護措置
・ブランドイメージ
・海外市場、ワイン愛好家への価値訴求
・産地の団結や活性化
といったものがあります。

一方で、
基準作成、運用、官能評価などのコスト、関係各位の同意、特に近隣地域の同意が必要。
などのデメリットもあります。

これらのメリットとデメリットが相反するので、GI認証を導入する地域が大幅に増えると言う状態には至らず、認知度も上がらずにいます。

特に基準の作成や、近隣地域との関係性と同意といったあたりの難易度が高くなります。

例えば、白山地域のGI認証の基準はかなり厳しいものです。
そのため品数もなかなか増えないそうです。これによって、結局知名度がなかなか上がらないといった難しさもあります。

GIは常に取得が目的ではなく、その後の運用とブランド化、そして利益の向上につながるものでなければなりません。

GIの今後

GIの今後には多様な形があります。

例えば、先に述べたGIからのブランド化もその1つでしょう。
もっと言えば、そのブランド化は味わいの共通性だけでなくてもいいのです。
地域のストーリー性や、伝統なども含めてGIの基準に組み込むことになるでしょう。

またその場合は、常に土地のものを使わないといけないというのもナンセンスです。

例えば、歴史的に他地方の米を一部入れることが行われているような地域であれば、その製法ごと基準に組み込むことだって1つの手段です。

また今後はGIの多層化も加速すると思われます。

先の白山の例でいえば、白山はかなり厳しい基準を設けているので、もっとゆるい基準でGI石川という下層のGIを整備するといったことが起こるでしょう。

これは灘五郷であればGI兵庫、山形であれば逆に上層に地域名のGIを整備することになるでしょう。

これはフランスのワインなどで見られるAOC(AOP)の制度に近いものだと思います。

あるいは製法基準による名称の細分化を行い、スペインのワインのように表記するものも出てくるかもしれません。
スペインでは樽の熟成期間に応じて、クリアンサ、レゼルバ、グランレゼルバといった名称を冠するワインが造れます。
これは現状では特定名称酒で見られる区分に近いですが、そういった他の基準が出てくるかもしれません。

GIの運用と懸念

ここからは講演の内容とは別に私が思っていることを述べていきます。

まず個人的には、そもそもGIが必要かということをよく考える必要があると感じています。

基準がゆるすぎても意味をなさない、きつすぎても自身の首を絞めることになる。

それがGIだと思っています。

そのため明確なGIの方向性がなければ、導入はコストばかりがかさむモノとなるように思います。

あるいはGIは既得権益を生み出しかねないということも留意すべきかと思います。

日本酒業界は現状でもかなり新規参入が困難な業界なので、あまり関係ないかもしれませんが、ワインであればGI認証が新規参入の障壁になるのではと懸念されています。

あくまで起こり得るという意味でしかありませんが、
例えば、山梨でしっかりとワインを造っているにも関わらず、苗木が山梨産でないからGI認証されません。

なんていうこともゼロではないのです。
それにより、山梨のワインというブランドを使えない山梨県産のワインが出てきたりする可能性をはらんでいるのです。

このようにGIは、しっかりとメリットとデメリットを熟慮した上で取り組むべき制度だということを今一度認識する必要があると感じました。

ただ今回のシンポジウム自体はGIという制度と日本酒の知名度の向上が目的なので、そこまで突っ込んだ話はありませんでしたし、今はそれでいいのだと思います。

ただ問題が起こり得るということを認識し、手放しに消費者も喜ばないというのは重要なことだと思います。

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