NOMASENSEとNOMACORK
ワイン業界の方であればノマコルクという単語を聞いたことが一度はあると思う。
言わずと知れたベルギーのコルクメーカーで、かなりのシェアを占める。
このノマコルクはコルクだけでなく色々と研究開発を行い、独自の商材を抱えているそうだ。
そのうちの1つがNOMASENSE。
NOMASENSEというのは計測機の総称だそうで、NOMASENSEというものが特定のものを指すわけではなさそうだ。
そのため現状日本語で「ノマセンス」と検索すると「非接触の酸素濃度検知器」が出てくる。
とはいえこの検知器が出てくること自体にもかなり驚いた。
このあたりはさすが「きた産業」さん。
北海道であった学会でも紹介していたみたいで、この機械はもしかしたら知っている方もいらっしゃるかもしれない。
きた産業さんの情報記事はほんとに勉強になることも多いし、私が記事を書く際に参考にすることもある。
是非みなさんもチェックして見てほしい。
PolyScanとは?
しかし今回私が紹介するのは、このNOMASENSEの別の測定器“PolyScan”についてだ。
これは元々、自社のコルク等の試験用に考案され作られた機械だそうだが、どうもその需要がワインの生産者自身にもあるらしいとわかり、販売するに至った製品らしい。
この製品を営業マンとして30秒で説明するならば、
“この機械で、瞬時にポリフェノールとアントシアニンの量の指標が得られます。またブドウの成熟やワインの熟成期間をモニタリングすることで、それら指標の変化を経年でログし、データを蓄積することで、狙ったタイミングでの収穫や瓶詰を行うことが可能になります”
といったところだろうか。
こう説明をつけてみると、大規模ワイナリーでのデータによる生産管理に向いている機械ということになるだろう。
この機械の説明に入る前にとりあえずどんなものなのか見てもらおう。
このタブレット型の端末がPolyscanで、箱の中の4つある筒に分析用チップ、あとはバッテリーチャージャーなどが含まれる。
このタブレット端末ほどのサイズのものは、実際にAndroidのタブレット端末である。
横側に充電用のケーブルを挿すところに加え、専用のチップを挿すところもある。
また両サイドに1つずつタブレットの電源と、内部の測定器の電源が付いている。
測定と分析
測定の方法はいたって簡単。
ワインでもマストでも一滴専用チップ(ちなみに日本円で1つ350円ぐらいする)に乗せれば、あとは情報だけ入力して測定を開始するようにタッチパネルを操作すればいい。液体を垂らすのは黒のバーコードのような部分、タブレットに挿入するのが手前の白と灰色の部分。
ちなみにここで入力する情報は、その測定の名前と品種などの選択、および醸造のどの段階での測定なのかを選択するといったものだ。
これは後にクラウドから情報にアクセスするときなんかのグループ分けに用いられている。
測定開始後、1分ほどでグラフが表れ、最終的なポリフェノールやアントシアニンの量を表す独自の指標が得られる。
そのときの様子も含めて3分ほどの動画なので見てみてほしい。
特に解説の話などはないので、英語やフランス語があまりわからなくても雰囲気は分かっていただけるかと思う。
そしてその測定が終わり次第PhenOx、EasyOxそしてTannOxという指標が得られる。
ブドウの熟度管理で使っていた際には表示されなかったが、この会社の資料を見る限りではワインではTPI(Total Polyphenol Index)なんかも得られるらしい。
そう、先ほどから数回に渡って言っているが、あくまでもわかるのはフェノールの量やアントシアニンの量を表す「指標」である。
量そのものを測定するわけではない。
これはそもそもこの機械が電位と分子の酸化される速度で計測を行っているからである。
そのためこのEasyOxの指標にはアントシアニンの他、比較的酸化されやすいカフェイン酸や没食子酸といったものも含まれるし、PhenOxも酸化可能な様々な分子から算出されていると述べている。
この企業の資料を引用すると以下のような表現である。
✓EasyOx: easily oxidizable compounds, rapidly involved in oxidation reactions
✓PhenOx: total oxidizable compounds, correlated to Folin Ciocalteu index
つまりこの機器は絶対値を示すものではないということである。
ではこの機械はどのように利用すればいいのだろうか。
課題と利用可能性
そのため同ワイナリーのワイン間の比較や年度間の比較には用いることができるが、なかなか他のワイナリーの結果と照合するのが難しいというのが課題だろう。
また一概にフェノールが多いから、アントシアニンが多いからというのが味わいや色に結びつかないというのも課題になる。
一方で、プレスの画分を分けるのには比較的使いやすいかもしれない。
プレスの工程でPhenOxが一定値を超えた段階でプレス果汁として扱うなんていう使い方はできるのではないだろうか。
プレス自体は一年の収穫で複数回行うものであるし、プレス果汁を分けるときになんらかの指標があるのはいいことだと思う。
またアッサンブラージュ時の指標になることも想像できる。
この値以上に官能的な評価が重要になるのは間違いないが、この指標によってポリフェノール含量やアントシアニン含量の指標の年度比較ができるだろう。
年度比較で大きく値が異なるようであれば、アッサンブラージュを再検討してもいい。
TPIがもし使えるのであれば、この指標は一般的なので横比較もでき、そこから熟成のポテンシャルなんかの目安を得ることもできるだろう。
ただしかしどれもぼんやりとした効果と利用であまりピンと来ないというのが個人的な感想である。
ただこの技術が持つポテンシャルというのは確かにあると思う。
現状比較できる情報量の少なさや、目安となる数値をこの企業(VINVENTIONS)自体が持ちえないというのが難点ではあるが、今後ワイナリーからの情報がクラウドに集まってくることになれば、もっと有効な意志決定補助ツールになっていくだろうと思う。
現状この製品はフランスをはじめとしたヨーロッパ、そしてアメリカといった大きいワイン産国のみで販売しているらしいのだが、この技術とデータに信頼性が生まれた頃には日本にも入ってくるのかもしれない。
PolyScanの公式サイトはこちら
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