今回は「マーケティングとはなにか」を優しく導いてくれる森岡毅氏の著書になります。
森岡氏はP&Gでブランドマーケティングを経たのちUSJに参画し、昨今のUSJの基盤を作り上げた方で、日本屈指のマーケターです。
マーケティングとはなにか
この質問を答えるのに自分なりの定義づけができる人は立派なマーケターの方なのだと思います。
マーケティングという言葉だけが急速に広がり、なんとなく重要性も分かるけど、何をしているのかはっきりしない。
会社におけるブランド戦略やPR戦略を主導していそうな花形部署。
私自身もざっくりそんなイメージを持っていただけように思います。
森岡氏曰く、そんなマーケティングの一番簡単な定義は
「トップライン(売上)を伸ばす人。」
「売るのではなく、売れるようにする人。」
売り上げを伸ばすのは別にマーケティングだけの仕事ではないですが、マーケターは消費者目線に立って価値を考え、その根幹にある改善点を洗い出し、改革を進めることによってトップラインを伸ばすのです。
そのための売れる仕組み、仕掛けを作るのがマーケティングです。
つまり全社戦略の方向性を決め、個々人の努力を利益に最大限変換できるような「選択と集中」を行う(本書ではビジネス・ドライバーといい、選択をすることは戦略である)といったことがマーケターの役割になるのです。
USJが従来の映画をベースにしたテーマパークから、「世界最高のエンターテイメントを」といった方向性に舵を切ったのも、消費者目線を徹底したマーケティングによるものなのです。
マーケティング優勢な世界
本書では「マーケティング優勢で技術力を活用する会社」が今後生き残っていくであろうとしています。
それには私も大いに賛成します。
つい先日読んだ記事にもこんなことが書いてありました。
日本の家電産業のほとんどは「役に立つけど意味がない」というところで戦っているから。市場が閉じた状態であれば各国別に10社ぐらいは生き残れたかもわからないですけども、これがグローバル競争になっていくと、世界で一番役に立つ会社の10社しか生き残れない。
山口周/logmiBiz
この「意味がない」ものというのは消費者にとって機能的価値しか与えられていない状態のことを指すと思っています。
それを越えたブランド価値を持たせることもマーケターの重要な役割で、それをしなければグローバル競争下で生き残ることは難しいだろうということです。
ただモノによってはローカルが強い場合ももちろんあります。モノの付加価値に対して輸送にコストがかかりすぎるモノです。
一方で、インターネット上のサービスなどは顕著にグローバルな競争に晒されます。
そういった時代背景を踏まえても、マーケティングの方向性に技術力を添わせる戦略は理に適っていると思います。
一方で、私自身は昨今の日本の技術の空洞化にも目を向けなければならないと思っています。
例えば、ホンダのコアコンピテンスといえばエンジンの技術。
少なからず企業はコアの部分だけ自社で作り上げ、他はオーダーしているということがあります。
つまり今では、重要性の薄れたエンジン技術だけが残ってしまっている、そんなことも起こりかねないのです。
さらには東大京大の総コンサル化なんかも私はかなりの危機感を覚えています。
これも技術力やリスクを取れるマネジメント層の空洞化を招くと思っています。
ここに関しては、森岡さんも平均台の例で触れています。
「地上50mのビルの上で平均台をすれば多くの人が落ちるが、普通の平均台で落ちる人がいない」
そんな例えだったように思います。
リスクを取れる人材はリスクを取る経験の中でしか育たないのです。
マーケターがしっかりと消費者の価値に立ち返り開発を進めるというのは大いに賛成ですが、技術や現場を理解しない「マーケター」が量産される事態だけは避けなければならないと思います。
戦略的思考とマーケティング
マーケティングがなにかという話の次にはもちろん、マーケティングとはどのようにするかというところに話が及びます。
本書ではマーケティングは戦略的思考に、戦略的思考は論理的思考に含まれるとしています。
つまり 「マーケティング⊂ 戦略的思考⊂ 論理的思考」です。
この戦略的思考は「戦況分析」、「戦略(What)」、「戦術(How)」、「目的(Why)」、「目標(Who)」といったパーツによって説明されています。
ここの詳細まで書いていると長くなりすぎるので、ここからは割愛しますが、これらを再定義し、戦略的思考をわかりやすく説明がなされています。
特にここに書いたような「戦略(What)」を文字通り“What”であると受け取ると、この本のニュアンス部分が受け取りずらいと思うので、この辺りは手に取ってしっかりと読んで頂ければと思います。
またその説明の中で4Pや5C(3CにCustomerとCommunityを加えたもの)といった型やターゲティングや消費者インサイトの重要性を説いた部分が出てきたりします。
個人的にはターゲティング(戦略ターゲットとコアターゲット)の考え方や、戦略の質のチェックの仕方(4Sチェック)などは腹落ちしない部分もありました。
その辺りも今までの自分の考え方と違う切り口だからこそなのではないかと思うので、今後折を見て使っていくべきものなのでしょう。
マーケターへの言葉
この本の後半1/3ほどはマーケターへの言葉と、なぜ重要なのか、これからの社会でどういった意味を持つのかといったことが綴られています。
そしてここの部分では、森岡さんの日本の若者への警鐘と期待も伺えます。
その中でも、私が気に入ったのが、
今後の日本社会を支えていく上では、「戦略」部分をもっとしっかりと立て、強みである「戦術」で優位性を保つ戦い方をすべきだ
という説明がなされているところでした。
この本に依拠しないで言うのであれば、
日本人は昔から細やかなソフト面が得意なので、ハード面でももっと合理的な判断を下せるようになれば、ソフト面の強みが活きてくる
といったところでしょうか。
この説明でもピンとこないかもしれませんが、そういった方はぜひ一読していただければと思います。
後半はさらっと読む程度で十分だと思いますし、それだけでも十分に示唆に富んでいると思います。
終わりに
この本では色々な日本語の再定義からなされていて、その違いをしっかりと意識することで言葉の意味と物事への理解を深めてくれます。
「目標」と「目的」、「戦術」と「戦略」、「マーケターとは」や「マーケティングとは」といったことを今一度見直すことができます。
それによって形骸化した戦略策定や、目的と目標の混同、レイヤーが違うために生じる目的のズレなどが解消されるのではないかと思います。
森岡さん自身も仰っていますが、企業内での立ち位置に関わらず、一度マーケティングというものを考えてみる、そういう視点で物事を捉えるきっかけになる良書であると思います。
ということで今回もリンクを置いておくので、気になった方はぜひチェックしてみてください。
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